――不出馬は最善の選択だったのでしょうか。

 菅氏にとってはそうでしょうね。総裁選挙に出ても、かなり厳しい結果になる。総裁選に出て敗れることに比べれば、不名誉の度合いは小さい。今ある選択のなかでは、彼にとっては最善でしょう。

――国民にとってはどうですか。

 安倍政権以来の、国民に対して十分に説明しない、現実を直視しない、独りよがりなことをやる、強権的にやるという政治スタイルではダメです。

 特にコロナ禍は、一般の人々の協力なしには解決できない問題です。医療の拡充についても政府がしっかりとビジョンを示して、医療機関や国民に協力を訴える必要がある。菅氏はワクチンを持ってきたから大丈夫ですということばかりで、政策決定に至った経緯やデータに基づいた説明をほとんどやってこなかった。

 他国のリーダーはそれをやっています。菅氏のやり方ではコロナ禍を乗り切れないし、経済状況を改善するビジョンも見えてこない。その状況が続くことに人々は不安感を持っていたわけで、世論調査でも厳しい結果になって表れた。これまでのやり方ではダメだということが明確にされたことだけでも、国民にとってよかったと思います。

――安倍政権から続く「官邸1強」の政治は変わりますか。

 小選挙区制度が続く限りは、政権中枢に権力が集中します。また、官僚の人事を政治家が一手に掌握する内閣人事局が存在する限り、官僚も物が言えません。そうした問題を抜本的に改革しない限り、基本的に官邸主導の弊害は除去できない。これまでの強引なやり方に対して、弊害が明らかになった。次の政権は、少なくともそこを考慮して、慎重な権力運用をすべきだと思います。

――しばらくは総裁選に話題が集中しそうです。

 野党の反応が気になります。菅氏を批判する形で選挙に臨もうとしていたのに、菅氏がいなくなったので、あてが外れたということはあるでしょう。しかし、そんな受け身なことではいけません。立憲民主党の枝野幸男代表が、菅氏を「無責任だ」と批判していました。それも間違ってはいませんが、国民の政治への怒りが今回の動きを生んだことの方が重要です。地元・横浜でも負けるほど、菅氏に対する「ノー」があった。それを政治がどう受け止め、野党としてどういう新たな提案を行うのか、ということが問われています。

○すぎた・あつし/1959年生まれ。東京大学法学部卒。専攻は政治理論。著書に『権力論』、『憲法と民主主義の論じ方』(共著)など

(編集部・福井しほ)

AERAオンライン限定記事

暮らしとモノ班 for promotion
大人のリカちゃん遊び「リカ活」が人気!ついにポージング自由自在なモデルも