菅義偉首相の自民党総裁選不出馬表明で、「次の首相」を巡る動きが加速している。杉田敦・法政大学教授(政治理論)に、一連の動きについて聞いた。
【写真】菅首相からの寵愛を受けるも、ついに更迭された総務省の高級官僚はこの人
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――菅義偉首相が自民党総裁選への不出馬を表明しました。
「菅政治」に対する国民の怒りによって引きずり下ろされた、という大きな構図があると思います。直接には自民党内の動きによって降りたとも言えますが、なぜ党内にその動きがあったのかを考えると、国民の怒りが菅政治に対する批判を強め、降りざるを得なくなった。世論によって審判を受けたのです。
――菅政権が発足してからの1年、国民が怒るシーンは何度もありました。
政権発足直後にあった「日本学術会議の任命拒否問題」は、かなり象徴的でした。首相就任以前から、菅氏が行ってきた自分の意見に従わない官僚は更迭するといった強権的な人事手法を、学者の世界にも適用しました。
官僚は恫喝(どうかつ)で萎縮します。公文書の書き換えまでさせられました。もっとも、学者はそう簡単には屈しない。文理問わず200以上の学会が抗議声明を出し、学者の世界が総反発しました。学者の世界だけの話という受け止めも一部にはありましたが、政府に批判的な意見が排除されるような社会でいいのか、という問題です。
それ以降のコロナ対策にしても、東京オリンピック・パラリンピックの開催を巡る問題にしても、人の意見を聞かないこと、理由を十分説明しないことが問題だった。記者会見でも、質問に対して全く答えない。首相や周辺が決めたことについて、説明しないで問答無用に従うように求める強引なやり方が、国民からも批判を受けたと思います。
――今回も得意の人事で乗り切ろうとしたという指摘もあります。
本当に党改革を目指したのか、一時的に国民の不満を自分からそらすために、二階俊博幹事長に矛先を向けたのか。本当のところはよくわかりません。菅首相のまま総選挙に臨んで、負ければ責任を取らされる。そのとき、一番問題を問われるのは幹事長です。そんな損な役回りは嫌だから、さすがに首相に言われても引き受けない。権力をかさに何でも言うことを聞かせられるというやり方の頓挫だと思います。「役人は自分のいうことを聞く」という成功体験が、落ち目になってきたら、自分の党の政治家にさえ通用しなかった、ということです。
――横浜市長選の大敗も象徴的でした。
それも影響していると思います。菅氏の選挙区である神奈川2区ですら票が伸びなかった。当初はカジノ問題が争点になると思われました。ですが、菅氏が推した小此木八郎・前国家公安委員長が、自民党の立場を覆してカジノ反対と言ってしまったので、争点ではなくなった。
そうなると、結局コロナ対策が争点になった。横浜市の問題というより、国政レベルでの菅さんの失策が、市長選でも問われた。今後も、コロナ禍がすぐに収束するとは思えないので、政府・与党への批判は続くと思います。