HPV感染に関連しているがんを予防するために開発されたのが、HPVワクチンです。米国や英国、カナダ、ブラジルなどでは、女子だけでなく男子への接種がすでに推奨されています。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のPeter氏らが、アメリカの18歳から26歳の若年者を対象にHPVワクチンの接種率を調べた調査によると、2013年から2018年の6年間に接種率が22%から40%に上昇していたことがわかりました。男性の接種率は8%から27%と特に上昇しており、女性の接種率も37%から54%にまで上昇したこと、そして多くが13歳から17歳の間に、初回のワクチン接種を受けていたことも判明しました。

 HPVワクチンの有効性と安全性については、すでに多くの研究結果が報告されており、HPVワクチンが子宮頸がんの前がん病変である高度異形成を抑制するという医学的コンセンサスは確立されています。2020年の10月には、ウェーデンのJiayoa氏らにより、4価のHPVワクチン接種は子宮頸がんのリスクの大幅な低下と関連していたことがマサチューセッツ内科外科学会より発行されているニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)より報告されました。HPVワクチン接種が子宮頸がんの前がん病変である高度異形成を抑制するだけでなく、子宮頸がんのリスクの大幅な低下をもたらすと判明した今は、世界では高リスク型である9つの型のHPV感染を抑える9価のHPVワクチンが標準となっており、多くの国で接種が進んでいます。

 日本は残念ながら、接種がほとんど進んでいません。2013年、厚生労働省が副反応の懸念から積極的勧奨を中止してしまったからです。おかげで、HPVワクチンの接種率は1%を下回っています。多くの国で接種が進み、子宮頸がんに罹患する女性が減る一方で、日本では増加すら示唆されているのです。

 HPVワクチンの積極的勧奨の再開が求められている中、8月末の会見で、田村厚生労働大臣からは「コロナがひと段落ついたら……」と積極的勧奨の再開先送りを表明しました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが広まってはや1年半が経過しました。ワクチン接種が進んだイギリスは新型コロナウイルスと共生していく道を選びましたが、ゼロコロナになる日はやってこないと私は思っています。ワクチン接種が進み、病床を増やして受け入れできない状況がなくなれば、「ひと段落つく」のかもしれませんが、田村厚労相がどういう状況を想像して「コロナがひと段落ついたら」とおっしゃったのか?「ゼロコロナ」を想像しておっしゃったのであれば、再開先送りのまま、ということになるでしょう。

 新型コロナウイルスワクチンも接種開始が遅れた日本。HPVワクチンも圧倒的に遅れている日本の状況を直視するときに来ているのではないでしょうか。

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

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