林:ありがとうございます。
木村:エッセーや小説、いろいろと読んで、印象的だったのは、フィクションであるはずの小説よりも、エッセーのほうが虚構っぽい感じがしたんですよ。小説はご自分の体験から距離をとって、加工し、整理をして書かれているのに対し、エッセーは「このようなものを見たら、このように感じなきゃいけない」というような、少なからず演じているような雰囲気を感じたんです。
林:ああ、なるほど。たしかに、「こう書かなきゃいけない」という強迫観念はあるかもしれません。エッセーは自分の生活や体験から切り出すものですから、あらかじめ予防線を張っておかないと、SNSなんかでネガティブな反応が必ず来る、ということがわかっているからかもしれないですね。この2、3年、私たちみたいに勝手なことを書いてる人間にとっては、すごい苦難で……。
木村:何でも揚げ足をとって攻撃してくるということですね。
林:だから「エッセーに虚構を感じる」とおっしゃったのは、指摘されるとそうかもしれないな、と思います。炎上してしまった経験、ありますか。
木村:特に憲法的な争点というのは、わりと政治的な問題にもかかわってくるので、攻撃を受けることがなくはないですね。
林:ネットでたたかれたりすると、イヤな気持ちになりませんか。
木村:私の本を読んでたたくのは、ちゃんと読めていないということなので、あまり気にならないですね。インターネットという場で、匿名で人を攻撃するというのは、かなり特殊な行動だと思っています。
林:私も見ないように、気にしないようにしていますが、いまだに目についちゃうと、イヤだな、と思うこともあります。
(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)
木村草太(きむら・そうた)/1980年、神奈川県生まれ。憲法学者。中学生時代から法律に興味を持つ。東京大学法学部、同大学院法学政治学研究科助手を経て、現在、東京都立大学大学院法学政治学研究科教授。著書に『憲法の創造力』(NHK出版新書)、『憲法という希望』(講談社現代新書)、『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)、『ほとんど憲法』(河出書房新社)、『憲法学者の思考法』(青土社)など。趣味は音楽鑑賞と将棋観戦。
※週刊朝日 2021年9月17日号より抜粋