他の鬼たちは表面的には家族設定に合わせているが、累の“家族”への執着は異常だった。
■累の過去
5巻・第39話冒頭は、累の「家族観」を示すモノローグではじまる。
「父には父の役割があり 母には母の役割がある 親は子を守り 兄や姉は下の弟妹を守る 何があっても 命を懸けて」
累が作り上げた“ニセモノの家族”で、累はすべての人に「守られるべき存在」である子であり、末の弟だった。なぜ、累はこんなにも理想の家族像にこだわったのか。
累は自分のイメージ通りに、他の鬼たちを動かそうと、暴力と恐怖で支配していた。「累は何がしたいの?」と問われても、累自身、自分の心がよく分からない。
<答えられなかった 人間の頃の記憶がなかったから 本物の家族の絆に触れたら記憶が戻ると思った 自分の欲しいものがわかると思った そうだ 俺は>(累/5巻・第42話「後ろ」)
実は人間時代の累は、生まれつき体が弱く病苦に悩まされていた。ある日、累の元に無惨が現れて、「可哀想に 私が救ってあげよう」と累を人食い鬼に変えてしまった。まだ幼い累。さらに鬼化によって善悪の判断はより曖昧になっていった。
■累の願いと苦悩
おそらく累の本当の願いは健康になることだけだった。しかし、丈夫な体と引き換えに、人を殺し、喰わなくてはならなくなった。善良な累の父母は嘆き悲しみ、あることを決心する。
<何故俺の親は俺を殺そうとするのか 母は泣くばかりで 殺されそうな俺を庇ってもくれない>(累/5巻・第43話「地獄へ」)
自分を殺そうとした親への絶望から、両親を殺害した累は、母の最期の言葉を耳にする。
「丈夫な体に産んであげられなくて…ごめんね…」
死ぬ直前の母の様子に、恨み言や怒りは一切なかった。大粒の涙と、息子・累への愛情深い言葉だけを残した。その言葉を聞いた累は、刃物を持って自分に向かってきた父が「一緒に死んでやるから」と泣きながらつぶやいたのを思い出す。やっと両親の真意に気づいた累だったが、すでに取り返しのつかない状況になっていた。