

オーラルケアの意識の高まりに伴い、近年は虫歯で歯を失う人の数は減少傾向にある。一方で「歯並びの乱れ」や「親知らず」が原因で、思わぬ口腔内トラブルに見舞われるケースがあることは意外と知られていない。これらを放置することで、将来的にどんなリスクがあるのか。それぞれの専門家に聞いた。
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静岡県在住の70代女性は、歯磨きを終えて鏡を見たときに、ふとした違和感を覚えた。自分の歯の形が以前とは違うように感じたのだ。
「ほんのわずかですが、観音開きの扉を押し込んだときのように、上顎の前歯2本が内側にねじれている感じがしました。最近、食べ物が歯に挟まりやすいなと感じてはいましたが、まさか歯の形が変わっているとは思いもしませんでした」
女性は毎食後、必ず歯磨きをするなど、口腔ケアには人一倍気を使ってきた。おかげで一本も歯を失うことなく現在まで過ごしてきたが、歯並びや噛み合わせには無頓着だったという。
「そのあと何件か歯医者に行ったのですが、『今から矯正するのはリスクが高いのでやめたほうがいい』と全て断られてしまいました。これ以上、歪みが悪化していかないか不安です……」
女性のように、高齢になってから歯列の歪みが進んでしまうケースは珍しくない。
東京都世田谷区の矯正専門クリニック「矯正・自由が丘歯科室」院長で、日本矯正歯科学会認定医の篠崎直樹歯科医師によると、「最近は50代以上の中高年の方から相談を受けるケースが増えている」という。
「当院では、以前から成人の歯列矯正に積極的に取り組んできたこともあり、患者さんの1~2割程度が50代以上の方です。最近になり歯がグラグラと動き始めて、『このままでは抜けてしまうのではないか』と危機感をもたれて来院される方が多いですね」
歯並びが多少悪くとも、虫歯や歯周病でなければ、放置しておいても問題ないように思える。しかし篠崎院長は、「歪みを放置すると、高齢になるほど口腔内トラブルが起こるリスクが高まっていく」と指摘する。