ゆうき医師は、「あくまで一時的に気分がよくなるに過ぎません」とくぎを刺す。中傷によってドーパミンが放出され、快感を得られたとしても、中傷を繰り返していくうちにドーパミンの量が減っていってしまうのだ。

「同じ快感を得るためには、より強く、行為の回数も多くしなければならなくなります。そのため、何度も中傷をしてネットから離れられなくなるという繰り返しになります。私は個人的に『誹謗中傷依存症』と呼んでいますが、ネットの中傷には依存症的な傾向があると考えています」(ゆうき医師)

 この状態は、アルコール依存症と似ているという。アルコールは脳に快感をもたらすが、飲み続けているうちに脳に耐性ができてしまい、どんどん量が増えていく。「やめたくてもやめられなくなる」のがアルコール依存症だ。

高まる「叩きたい」欲求

 終わりの見えないコロナ禍で、誰もがストレスは増している。ゆうき医師は、そうしたストレスを外にぶつけようと、中傷をしてしまう人が増えているのではないかと推察したうえで、こう警鐘を鳴らす。

「中傷を続けた人は、最終的には不幸になります」

 ストレスは、中傷では解消できない。一瞬、楽になったように感じても、また新たなストレスをため込んでいるだけなのだという。

「逆に、『依存している対象に飢えてしまう』というストレスにもさらされます。アルコール依存症の人は、お酒を飲むことが我慢できない、早く飲みたいという『飢え』が生じますが、実はこれもストレスを感じている状態なのです。誹謗中傷も同じで、また叩きたいという欲求が高まり、それに囚われ続けることでストレスにさらされます。さらに、そうした『依存症』の人は日常のちょっとした幸せへの感度が鈍くなり、依存対象でしか幸せを感じられなくなってしまう。結局は、自分が不幸になるだけなのです」(同)

 家でも外でも、スマホを見続ける人は多いだろう。ゆうき医師は、ヤフコメなどについて、「依存症的な人に何度も書き込んでもらい、アクセス数を増やしている側面もあるのではないか」と指摘し、ネットニュースなどを一切見ない「ネット断食」の日を設けることを勧める。

 やる前は不安に思うかもしれないが、「実際にやってみると困らないことに気付きます。ネットの情報の多くは、人の劣等感を刺激したり攻撃したり、また煽ろうとして書かれています。それを読んで気持ちが揺らぐというリスクを考えると、見ないでいただいた方が精神的にも良いと思います」(ゆうき医師)

 中傷やバッシングを続けてしまう人は、まずは試しに一日ネットを遮断し、「誰も叩かない日」を作った方が良さそうだ。意外と、気分が晴れるかもしれない。

(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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