特に主人公の女性トン・ジスと、男友だちのイ・シヒョンの会話は、韓国語では対等なのに、ジスのセリフを女性らしくすると、ジスらしさが消え、会話の平等性が失われた。対等な雰囲気を残しつつ、違和感をなくすために、ジスは少し荒っぽい言葉遣いを、シヒョンは柔らかい言葉遣いにしてバランスをとった。

「たとえば文中で女性が『やめろ』と命令していても、日本語では、『やめて』とお願いの言葉になるんです。日本語の女言葉は、『てよだわ』が文末につくことだと思っていたのですが、相手に命令することや、強く拒否することが禁じられているんだと気が付きました。日本語は言葉から男女の不均衡があるんです」

 韓国のベストセラー小説『82年生まれ、キム・ジヨン』は、女性の差別を可視化させたことで世界で話題になった。大島さんは『ハヨンガ』は、『キム・ジヨン』の発展版だと考えている。

「1982年生まれのキム・ジヨンは、他人の声を借りて女性への抑圧に静かに抵抗しましたが、そのキム・ジヨンよりも10歳下の年代が主人公の『ハヨンガ』では最後、メドゥーサのメンバーが犯人の男を蹴るんです。物理的に蹴ることの是非はともかく、何か理不尽な目に遭ったとき、これは相手が悪い、自分が正しいと確信したら、ためらわずやり返す、下の世代は一歩進んだんだと思えました」

 そしてその時に必要なのは、手を差し伸べ合い、連帯できる仲間だ。

「強くなるというのは、自分一人で解決しようとしないことだと、この本で教えてもらいました。女性が共に闘うと、自分を救うだけでなく、世の中を救うんですね」

(編集部・大川恵実)

AERA 2021年9月13日号

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