局長会の会員は、約1万9千の旧特定郵便局の局長が中心だ。明治初期、資金の乏しい政府に代わり、地方の名士の私財提供でつくられた小規模郵便局がルーツで、世襲によって局長の座や局舎の所有権が引き継がれてきた例も多い。伝統や歴史に敬意を払い、慣習が一部、残ることもあるだろうが、それを上場企業の経営にまで持ち込んで影響を及ぼしているとなれ
ば、話は別だ。

 日本郵政グループは2007年に民営化し、2015年には日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社が東証一部に上場した。国がまだ株式の過半を握っているとはいえ、郵便事業を担う日本郵便は、上場企業である日本郵政の主要100%子会社である。日本郵便社員であるはずの郵便局長で構成される任意団体が、会社の人事や事業方針にまで深入りしているのであれば、その実態を投資家や国民に対して説明する責任が会社側にはあるはずだ。

 全国郵便局長会では、「選考任用」「不転勤(任地居住)」「自営局舎」の三本柱が重要だと会員に向けて唱えており、その実現に向けて行動するよう局長たちに求めている。具体的には、局長として採用されるべき人材を選んで推薦し、局長を転勤させないよう働きかけ、局長が自ら郵便局舎を持つようプレッシャーをかけている。有能な人材として選び抜かれた局長が、生涯をかけて地域の中核的存在となり、自らも局舎も持つことが「後継者育成」や「組織力の発揮」、「時代の変革への対応」に役立つ―ーというのが局長会の教本に書かれた理屈である。

 だが、現場の実態はどうか。

 局長会で「後継候補」を選ぶときは、単なる「地域密着」だけでなく、局長会の活動に積極的に参加し、とくに局長会が組織内候補を立てる選挙運動に取り組めるかが重視されているとみられる例が少なくない。自分で局舎物件を買って保有する考えがあるか、局長候補となる社員の妻が「ともに局長会活動に参加できるか」と確認されることもある。

次のページ
選挙運動で得票が稼げなければ、出世できず