AERA2022年11月28日号より
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 岸田文雄首相は世論を読めていない。大臣の更迭判断の遅れや的外れな政策で批判を浴びるばかり。それは内閣支持率の低さにも表れている。岸田首相の何が問題なのか。2022年11月28日号の記事を紹介する。

【図表】岸田文雄内閣の支持率はこちら

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 なぜ、鈍感であり、かつ判断に方向性が見えないのか。社会学者で筑波大学教授の土井隆義さんは、岸田首相の姿は現代に生きる私たちの社会の「合わせ鏡」でもあると分析する。

「1990年代から社会学で指摘され始めた『仲間以外はみんな風景』という言葉を想起します。仲間内で非常に気を使い合っているため、それ以外には気を回す余裕がなくなり、単なる風景と化してしまう。岸田首相も党内の他派閥への配慮に敏感過ぎることで、国民の動向には鈍感になっているように見えます」

 社会学では、前期近代(90年代半ばごろまで)が「包摂型社会」、後期近代(90年代後半以降)は「排除型社会」だとする考え方があるという。たとえばマイノリティーに対しても、その人々を「のみ込んで(包摂して)マジョリティーの色へ暴力的に染め直してしまおうと」したのが前者であり、「多様性の尊重とは言いつつも、自らの懐の内にまでは受け入れずにすみ分けようとする(風景としてのみ見る)」のが後者だ。土井さんには、安倍元首相は前者の人間、岸田首相は後者の人間に映る。

「安倍元首相は、自分と価値観の違う人を強制的にのみ込んで『こっちを向け』という先導型。他方、岸田首相は『おれの色に染まれ』とは言わない調整型。だから、当初は国民からすると『癒やしの岸田』という声もあった。でも、配慮しているようで実は放置するだけになっている。国民を『配慮の外部』にしてしまっているように見えます」

「強制的にのみ込もうとする人には方向性が明確にあり、周囲からもそれが見えやすい。他方、配慮の人は、他人(つまり国民)を統御することに躊躇(ちゅうちょ)するので方向性を明確には示しにくい」

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