映画の撮影は、7月から8月の約1カ月にわたった。喬太郎さん演じる森田保造は、タナダ監督が喬太郎さんをイメージして書き下ろした。

「本業は電器屋さんで、商売をやりながら大好きな映画をみんなに観てもらいたくて、細々と映画館を続けている。商店街の店の一つが映画館、みたいな感じです。映画が好きで、その文化をこの街からなくしたくないんだけれど、震災があって、コロナがあって、一度は映画館を閉めようとする。特段、役作りはしなかったですが、“文化をなくしたくない”という思いは、落語家も同じです。だから自然に、自分と相通じるものを感じていたのかもしれないです」

(菊地陽子、構成/長沢明)

柳家喬太郎(やなぎや・きょうたろう)/1963年生まれ。東京都出身。89年、柳家さん喬に入門。98年、NHK新人演芸大賞落語部門大賞を受賞し、2000年に真打ち昇進。以降も、3年連続で国立演芸場花形演芸会大賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞[大衆芸能部門]など、数々の賞に輝く。20年、落語協会常任理事に就任。タナダユキが演出を手がけた「昭和元禄落語心中」(18年/NHK)では、落語監修を担当し、出演も。

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週刊朝日  2021年9月24日号より抜粋