ただ、大きな災厄が起こるたびに、「世の中に娯楽は必要なのか」という疑問を、胸に突きつけられる。今回のコロナ禍もそうだが、10年前の東日本大震災のときは、とくに家を流され、家族を失った人たちの前で、エンタメは何の力も持たないことを思い知らされた。

「先輩方がよくまくら(落語で本編に入る前の導入の部分)のネタで、落語を『あってもなくてもいい商売』じゃなく、『なくてもなくてもいい商売』なんていうんですが、本当にそう思います。世の中に落語なんかなくたって、誰も困らない。第1次産業は大事ですよ。食べることは生きることなんだから。第2次産業だってインフラを整備したり、第3次産業だって、運輸は不可欠。娯楽なんて、本来なくてもいいものなんだよね」

 今回のコロナ禍で、昨年4月に最初の緊急事態宣言が発令されたとき、仕事がなくなって、ずっと家にいた。そのとき、「つまんないな」と思った。その日常のつまらなさに、心が蝕まれていく気がして怖くなった。

「“つまんない”って、こんなに体によくないことなのかと思いました。“楽しい”と感じることはやっぱり大事だ、と。考えてみれば昔だって、農耕を覚え、狩猟を覚え、村という単位ができ始めたら、その中で、祭事が生まれていたんですよね。豊作を祈念するときに、踊りがあって歌があった。一年のサイクルの中に、楽しみが組み込まれていたから、つらい農作業も頑張れたのかもしれない。娯楽の原点について思い巡らしたら、『大事なんだ、俺たちの仕事も』とようやく思えた。以来、できるだけ人様に楽しんでいただけることがしたいと考えるようになりました」

 映画「浜の朝日の嘘つきどもと」へのオファーが来たのは、まさにそんなタイミングだった。

「福島を舞台にした、つぶれそうな映画館『朝日座』を再生させる話。その支配人の役だと伺いました。お芝居を経験することは、芸人としての自分にとってもありがたいことなんです。そもそもオファーをいただくことが少ないので、スケジュールが合って、よっぽど嫌な役でなければ、『経験したいな』と思う。しかも今回は、18年に放送されたNHKドラマ『昭和元禄落語心中』でご一緒したタナダユキ監督が撮るっていうんですから」

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