取り分けようとパトラが箱を開けたその時、「なにこれ!? チーズケーキじゃないっ!!」。箱の中には『チーズケーキ』と書かれたシールを貼られた三角の物体。「誰!? 間違えて買ってきたの!?」。蜘蛛の子を散らすように家来がどっかへ行ってしまった。泣き崩れる女王。「大丈夫ですよ、チーズケーキ好きですから」「チーズケーキじゃダメなんですっ! クリームパイじゃないと、クリームパイじゃないと……」
その後、落語三席やっている間、私の頭の中はクリームパイでいっぱい。図らずも韻を踏んだが、汗だくで高座を降りると本物のクリームパイを持って「買ってきましたわー!」とパトラ。とりあえずひと息つかせてください……。食べてみたら、これが……美味。甘過ぎず、素朴な味わい。いいじゃないですか、エーデルワイスのクリームパイ!
後日、呉出身者にこの話をすると「このご時世に実家に帰りたくなっちゃった……(涙)」と訴えられた。なるほど、クリームパイ支持率高し。傷心の菅さんにはパンケーキでもマリトッツォでもなく、クリームパイで心を癒やして頂きたい。支持率、グラッチェ。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめた最新エッセイ集『まくらが来りて笛を吹く』が、絶賛発売中
※週刊朝日 2021年9月24日号