謎のベールに包まれたファッションデザイナー、マルタン・マルジェラの実像に迫るドキュメンタリー「マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”」が、9月17日から全国順次公開となる。同作では、ライナー・ホルツェマー監督がマルジェラを口説き落とし、その隠された素顔に迫ってゆく。AERA2021年9月20日号の記事を紹介する。
【写真】ビニール製のショッピングバッグで作った服や、子ども時代に作ったバービー人形の服なども登場
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マルタン・マルジェラは1957年、ベルギーに生まれた。88年に自身のブランド「メゾン マルタン マルジェラ」を創設し、97年にはエルメスのアートディレクターに抜擢(ばってき)される。しかし人気絶頂の2008年に突然引退してしまう。
活動中から公の場には一切姿を現さず、インタビューにも写真撮影にも応じない「謎の人物」だった。そんな彼の素顔に初めて迫ったのが、監督のライナー・ホルツェマー(63)。
「マルジェラを知ったのは、17年にベルギーで開催されたエルメス時代の回顧展だった」
と、ライナーは話す。20年前のものとは思えないほどタイムレスでエレガントな作品に驚き、マルジェラ自身の刺激的なコレクションとのギャップに魅了された。「でも彼の映画を撮りたいと周囲に話した時、『絶対に無理』と言われたよ」
いったいどうやって口説き落としたのだろう?
「僕は常に、相手に正直に慎重に、そしてオープンに接する。そこを信頼してもらえたと思う。彼はパリで回顧展の準備をしていて、タイミングもよかった」
■川久保玲に夢中になる
顔を映さないこと、公開前に作品を見せることを約束し、撮影がスタート。本人の肉声で7歳でデザイナーを志したこと、仕立屋をしていた祖母に大きな影響を受けたことなどが語られていく。子ども時代に服の端切れで作ったスクラップブックや、初めてバービー人形に作った服なども登場し、驚かされる。
「あの品々は、彼の母が取っておいてくれたものなんだ。最初マルジェラは『昔のことは話したくない』と言っていたけれど、それらを手にすることで話しやすくなったようだ。撮影中、僕は彼の顔がカメラに入らないようにすごく気を使ったんだけど、彼の方がリラックスして、うっかりフレームに入ってしまったこともあったよ」