古田:オイラとしのぶちゃんがののしりあってる間に入るのって、嫌だよね(笑)。

松坂:そうなんです(笑)。とても重い作品ですし。青柳は自分というものがほとんどない。周囲からいわれのない疑いをかけられるのも、青柳が何の主張もしてこなかったところが大きいと思いますし。でも、自分の意思をはっきり伝えられず言葉に詰まってしまう青柳みたいな人は、結構多いのかなと思うんです。

古田:青柳もそうだけど、この作品のキャラクターはみんなリアリティーがあって、不器用で不自由な人たちばかり。もうちょっと自由にうまくやれないの?って思いました。

松坂:何かが変わればもっと楽になれるはずなのに。形が変わってしまった歪(いびつ)なものを持ち続けているから、ああいう不自由さが付きまとうんでしょうね。

古田:「リアリティーを感じる」という感想が多いのは、その不自由さがどこかしら自分にもあると感じた人が多いからじゃないですか。いろいろな受け止め方ができる作品ですよね。本当に嫌な気持ちになる人もいるだろうし、青柳がかわいそうと思う人もいるだろうし、添田がかわいそうと思う人もいるだろうし、自分の正義を振りかざす草加部に感情移入する人もいるだろうし。いろいろな捉え方ができる作品は、楽しいですよね。

松坂:観終わった後に誰かと話したくなるのは良いですよね。答えは明確には示してなくて、「自分はこう思った」を話し合える余白を残してくれている作品だと思います。

(構成/ライター・小松香里)

AERA 2021年9月20日号

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