
徹頭徹尾シリアス──。俳優・古田新太さんが7年ぶりの主演映画で、不慮の事故で娘を失い、モンスター化した父親を演じた。
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昔から、“お約束”が嫌いだった。観る前から「泣ける」とか「笑える」などと煽られると、途端に白けてしまう。
「子供の頃から夢中になるのは、高尚じゃなくて、くだらないほうの笑い。ザ・ドリフターズの『8時だョ!全員集合』はもちろん、伊東四朗さんや小松政夫さんが活躍した『みごろ!たべごろ!笑いごろ!!』『笑って!笑って!!60分』なんかを観て、ゲラゲラ笑ってました。オイラが夢中になる笑いは決まって、『教育上よろしくない!』と問題になって、子供心にも『世の中って面倒くせぇな』なんて思ってました」
映画「ロッキー・ホラー・ショー」を観て衝撃を受けたのは10歳のときだ。
「ドラッグあり、乱交ありで、登場人物全員が、今でいうLGBTQ+みたいな感じで、とにかくぶっ飛んでいた。『オモシロにタブーはないんだ!』と、胸がスカッとしました。“ホモ”とか“オカマ”みたいな言葉って、今はみんな気を使って口にしないけど、言う側と言われる側の関係がちゃんと築けていれば、言ってもいいと思う。『黙れこのオカマ!』って言って、言われた本人が笑えるなら、周りが『差別用語だ!』なんて言葉狩りするのはナンセンス。オイラはむしろ、『ハートウォーミングな~』みたいな枕詞がつく舞台や映画やドラマで、胸がスカッとしたことがない(笑)」
芝居のオファーが来たときも、自分が面白いと思っていないことをやっては失礼だと思っている。だから、主戦場である舞台では不要不急的な笑いを、あえて選んできた。
「“心温まる”作品をやりたい人はいくらでもいるだろうし。オイラは、笑う人もいれば、笑えない人もいる作品のほうがやっていて楽しいので」
そんな古田さんが、映画「空白」では、不慮の事故で娘を失い、その事故の関係者を追い詰めていく父親を演じた。現代の「罪」と「赦し」を映し出すヒューマンサスペンスだが、約2年前、吉田恵輔監督が書き下ろした台本を一読したとき、「一体、この監督はオイラに何を頼んでるんだ?」と思ったという。