デルスさんは、ときに孤独や寂しさを味わう。でも、それが彼の心を強くし、世界を広げていく。「子どもは孤独と向き合った方がいい」とヤマザキさんは言う。孤独を知らずして、人間の持つあらゆる感性を機能させることはできない、と。
「私自身、なぜ絵を描いたり本を読んだりするのが好きになったのかを考えると、『誰かを頼っていても限界がある』ということがわかったから。自分を支えてくれる栄養を自ら供給していかなければいけないとなったときに、芸術は栄養素となる。孤独を自分のものにできていなければ、そういった逞しいパワーも稼働しないのです」
あとがき「ハハ物語」の中で、デルスさんは内心では反発していたことも明かしている。それを知り、安心した。親はどこかで嫌われる覚悟をしていかなければいけない、と日々感じていたからだ。
「尊敬や憧れの対象になっていい。でも同時に、人間として批判の対象にならないと、子どもは自立して生きていけない」
模範的な人間なんていない。そんな“社会のサンプル”として親を見てくれればいい。
あとがきには、出産したときから抱いていた不安が払拭されるような一文もあった。
「『世界のどこに行っても一人で生きていける』。それは私にとって最高の賛辞です」
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2021年9月27日号