AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
「さよならテレビ」「人生フルーツ」「ヤクザと憲法」「ホームレス理事長」「神宮希林」など数々のテレビのドキュメンタリー番組を制作し、映画化して全国公開してきたプロデューサーの阿武野勝彦さん。新たに刊行した『さよならテレビ ドキュメンタリーを撮るということ』は、同氏が制作の裏側を明かし、自らの軌跡を振り返る、体験に基づくドキュメンタリー論だ。著者の阿武野さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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ドキュメンタリーの企画がどう立ち上がり、拒絶する取材先の扉をどう開けたのか。撮影現場の緊張感までが活字から伝わってくる。
「初めての単著ですが、いちばん最後に書くべき本だった感じがしています。今までを振り返っていろんなことを全部書いちゃったので」
阿武野勝彦さん(62)がプロデュースするドキュメンタリーは新作が発表されるたびに話題になり、ときに物議をかもしてきた。暴力団事務所に密着して彼らの人権に注目した「ヤクザと憲法」、四季折々の自然と暮らす老夫婦の日常をとらえた「人生フルーツ」、この本の題名にもなった「さよならテレビ」では、視聴率競争に追われる自局の東海テレビの報道現場にカメラを向けた。より多くの人に見てもらおうと、いずれもテレビ放送後に映画化して全国の劇場で公開している。作品を見ていなくても、この本ではドキュメンタリー制作のスリリングな現場感覚を味わえる。思わぬトラブル、経営者との対立など、初期作品から最新作までの舞台裏が惜しみなく明かされているからだ。
もともと放送批評誌「GALAC」の連載として、テレビ業界で働く人に向けて、もっと自由な視点で物を見るヒントになればと書き始めた。
「映像の表現がとがったり、深くなったりしたのはスタッフと共に作ったから。僕はスタッフに恵まれたんです。でも、書くことは一人。1カ月に1本の原稿なのに、頭の真ん中でずっと考えていました。ギュウギュウ、ギュウギュウ、何べんも書くから、すごい時間がかかるんですよ」