カール・マルクスの末娘、エリノアの激動の半生を映画化。東京のシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中 (c)2020 Vivo film/Tarantula Photo by Emanuela Scarpa
カール・マルクスの末娘、エリノアの激動の半生を映画化。東京のシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中 (c)2020 Vivo film/Tarantula Photo by Emanuela Scarpa

 恋に落ちたエリノアは周囲の忠告を聞かず、「父は自由だけはくれなかった。いつも誰かの世話ばかり。今度は私の番よ」と事実婚を選んだ。だが、大の浪費家だったエイヴリングは彼女の財産を食い潰し、マルクス家の親族や友人を頼って借金を重ねた。女遊びは絶えず、「離婚できない」はずだった彼が、いつの間にかエリノアに内緒で離婚し、他の若い女と“結婚”していたことも発覚する。

■人生を楽しむ「軽さ」

 1898年、43歳でエリノアは自ら命を絶つ。本当の理由はわからない。だが、こんな男と別れてさえいれば、と考えずにはいられない。「彼女が書き残した多くの手紙を読んだ」とニッキャレッリ監督は言う。

「エイヴリングは芸術家。旅を好み、おいしいものが好きで、人生を楽しむというある種の『軽さ』があった。真面目なドイツ人の父親にはなかった部分です。彼はまた、子どものようであり、何でもかんでもすぐに忘れてしまうルーズなところがあると語っています。彼女は彼が自分を傷つけるとわかっていても、愛さずにはいられなかった。彼には道徳心がないと何度も書いていますが、逆に言えば、彼女は彼のそんなところに引かれていたのではないか」

 矛盾を抱えたエリノアの、現代人にも通じる人間の複雑さに引かれた──。そう語った監督の言葉を何度も反芻した。

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2021年10月4日号

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