撮影したのは「焼き鳥屋てら」吉祥寺本店(東京都武蔵野市)。久住さんの行きつけの店で、絶品の鳥料理が楽しめる。(撮影/写真部・張 溢文)
撮影したのは「焼き鳥屋てら」吉祥寺本店(東京都武蔵野市)。久住さんの行きつけの店で、絶品の鳥料理が楽しめる。(撮影/写真部・張 溢文)

孤独のグルメ』も漫画自体の連載開始が27年前の1994年。年月を超えて愛される久住作品の生命力に驚く。

■株価を見て「こんな不安定なものの上に…」

 それにしても、久住さんの活動領域は広い。世界経済がITバブルに沸いた2000年には雑誌の企画でパソコンを使い、オンライン証券(当時はネット証券でなく「オンライン証券」と呼ばれていた)を通じた株取引にチャレンジしていた。

「ド素人でしたけど、『ド素人だからいいんです』と言われて。株なんて何もわからない状態でやらされました。連載とともに運用も終わり、今は証券口座の残高ゼロです。株取引にはなじめませんでした。

 めまぐるしく変動する株価を見て思ったのは、『こんな不安定なものの上に現代社会は乗っかっているのか』という驚きと不安」

 インターネットの発展は漫画家の仕事場も変えた。漫画家にとって、絵を描くときの参考にする資料整理、保存は大事な仕事の一つ。ネット普及以前の漫画家の仕事部屋といえば、資料であふれていた。

「深夜に突然ゴリラの絵を描きたいと思っても、本棚の図鑑に数カットあるだけ。あとはキングコングの写真を参考にしたり。それだけでは困ることもあるわけです。

 昔の漫画家にとって資料用写真の収集は不可欠でしたが、今では検索すれば画像が大量にヒットします。初めてインターネットを見たとき、これは漫画家にとって革命的なツールが出たと直感しました」

 以前ほど図鑑や本を買わなくなったとはいえ、久住さんの仕事場にはかつてそろえた何十年分の本が積まれているイメージがある。でも、違った。

「引っ越しのときなどに、使わなくなった資料は捨てます。今ある本棚に入る分だけで十分。絶版になっても、必要なら出版社に行けばあるし、大事に取っておいても意外に読まない。本に限らず、モノにこだわりすぎるのは危険な気がしています」

■はやりってね、必ず廃れるんですよ

 ここ数年、いやガラケー時代を含めると10年以上か。飲食店に入るとあちこちからスマホカメラの小さなシャッター音が聞こえてくる。

 料理や飲み物の写真をSNSにアップするため? そこでは写真の美しさが最優先され、味も香りも二の次。撮っている間、どんどん冷めていくのに、「SNS映(ば)え」狙い。最新スマホの上位機種には、「ここまでの撮影機能が必要なのか」と問いたくなるほどのハイスペックを搭載。

 久住さんはSNS映えを気にする傾向に対し、「まあ、はやりだからね」とあっさり。久住さんのツイッターアカウントはフォロワー9万人を超えるが、「映え」は全く追わない。

「はやりって、必ず廃れるんですよ。写真でも音楽でも絵でも、自分の手によるものが古くなるというのは悲しいですね」

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