仕事でも遊びでも一生懸命やるだけ。だから時折、開店前の店先で「一生懸命準備中」という看板を見ると違和感。

「一生懸命やるのはどの職業でも当たり前。わざわざ書くことではない(笑)」

 久住さんは本も執筆する。この記事のインタビュー日は、ちょうど『麦ソーダの東京絵日記』(扶桑社)の発売日だった。久住さんは、原稿を書いていて「ああ、この表現は説明的だな。エラソーだな。押しつけがましいかも」と思えば消すという。

「漫画でもエッセーでも、自分がおもしろいと思いながら書いて、それを読者からおもしろがってもらえた時点で、僕の言いたいことは伝わっています。それ以上のことは言葉にしなくてもいいんです」

■文言春秋漫画賞の腕時計はいずこ 

 最後に、「これまでの人生で一番の散財は」と聞いた。

「散財とはちょっと違うけど」と前置きしつつ、「高級腕時計」と。

 1999年に思春期のエピソードの数々を実弟の久住卓也さんと共著で漫画化した『中学生日記』が文藝春秋漫画賞を受賞。そのとき贈呈されたのが章名等が刻印された高級腕時計だった。

「贈呈から1週間も経たずに、飲み屋でなくしてしまいました。普段は時計をしないので、鬱陶(うっとう)しくなってカウンターに置いて飲んでいたのは覚えているんですが。裏面に第45回文藝春秋漫画賞と記された腕時計が、今もどこかにあるんでしょうね」

◎久住昌之(くすみ・まさゆき)/1958年、東京・三鷹市生まれ。法政大学社会学部卒業。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名で漫画家としてデビュー。泉昌之名義の単行本『かっこいいスキヤキ』はロングセラー。『昼のセント酒』『食い意地クン』ほかエッセーも多数。ミュージシャンとして年間60ステージ以上をこなす。切り絵で毎月新作を発表し、個展も開く。2012年、谷口ジローと組んで描いた漫画『孤独のグルメ』がテレビドラマ化され、現在はseason9までを放送

(文・大場宏明、編集・中島晶子)

※『AERA Money 2021秋号』から抜粋

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