しかし、岸田氏の口からは「キシダノミクス」という言葉は出ていません。しかもアベノミクス批判としか思えないような、最適分配による中間層の復権を訴えています。恐らく岸田氏の出身派閥、宏池会のケインズ主義的な考え方が生きているからでしょう。それが政策に反映されれば、アベノミクスからの離脱、転換は不可避です。岸田氏がアベノミクスの「墓掘人」になることもありえます。 

 総裁選の1日前に、米国連邦準備制度理事会(FRB)の金利引き上げ予測が広がり、ニューヨーク株式市場は下落、東京もあおりを受けました。明らかに世界は金融緩和政策の終わりを迎え、アベノミクスからの脱却が不可避となりつつあります。 

 その意味で出口戦略は待ったなしです。岸田氏はそれがわかっていれば、ここは面従腹背、忖度政治にすり寄りつつ、アベノミクスを葬り去るしかありません。それができるでしょうか。

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

AERA 2021年10月11日号

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