姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 蓋(ふた)を開けてみればドラマなき総裁選でした。新総裁となった岸田文雄氏は「生まれ変わった自民党を見てほしい」と言っていますが、派閥の力学が従来通り働いて、その落としどころが岸田氏だったということです。 

 今回、考えてみたい点が二つあります。一つ目はドイツと比較した場合の日本政治の「可動領域」です。ドイツは中道という可動領域の中で、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の中道右派から、社会民主党(SPD)の中道左派へと若干、振り子が動きました。 

 日本は保守と極右との境目がますます曖昧(あいまい)になり、右へ右へと動いて行っています。かつての自民党の強さは、安保騒動時に岸信介政権から脱イデオロギー的な池田勇人政権へと振り子が動き、その後の長期政権の足掛かりとなったことです。それが今は右へ右へと可動領域が広がり、振り子が働く余地がなくなりつつあります。 

 二つ目は、岸田政権が誕生した場合、これまでの忖度(そんたく)政治や安倍旧体制の二番煎じに終わるのかどうかです。そのカギとなるのが経済です。面白いことに今回の総裁選で、“安倍亜流”と言われた高市早苗氏は「サナエノミクス」という言葉でアベノミクス継承を宣言しました。 

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