イラスト／カトリーヌあやこ
イラスト／カトリーヌあやこ

　それは「くさや」。まさかの「くさや」テロ。その強烈な臭気にひるむ旅人。しかし日出子は言い放つ。「食べな！　こんなクサい飯、塀の中でも味わえないよ」

　くさいけれど食べればうまい。うまい、くさい、くさい、うまい。ほの暗い店内、逆光の片桐はいり。こわい。こわいけど、ちょっといいこと言う。

　くさい。うまい。ありがたい。「くさや」と「はいり」に連打されたら、どんな悩みからも解脱できるにちがいない。時には、店の奥にある氷室で個別説教されるオプショナルサービスもあり。

　そして、ともかく大島の風景が見ごたえある。火山が作り出したという黒い砂浜。風の音がゴウゴウこだまする噴火よけのカマボコ形シェルター。

　黒い砂漠みたいな火山の裾野にたたずむ片桐はいり。たちこめる霧は、「くさや」を焼く煙にも見えて、それはもうこの世ではないどこかの景色のよう。いつしかはいりがナンチャン（南原清隆）の女装姿に見えたりして、そろそろ寝ようと思うのだ。

カトリーヌあやこ／漫画家＆TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV！」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」（新書館）など

※週刊朝日 　2021年10月15日号

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