「私の話を聞いてください。」
手紙は、こんな一文で始まる。
「再調査をしてほしい、そのためには私の話を聞いてほしいという思いを込めました」
赤木雅子さん(50)はそう話す。夫の元近畿財務局職員の俊夫さん(当時54歳)が2018年3月、学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざんを命じられたことを苦に、自ら命を絶った。
財務省は同年6月、公文書改ざん問題をめぐる調査報告書を公表した。佐川宣寿・元同省理財局長が「改ざんの方向性を決めた」と結論づけたが、俊夫さんが亡くなった記載は一切なかった。今年6月、国側は、俊夫さんが改ざんの経緯をまとめた「赤木ファイル」を雅子さん側に開示した。しかし詳細は判然とせず、雅子さんは、夫が死に追いやられた原因と経緯を明らかにするよう訴えてきた。
そんな中、自民党総裁選では、森友問題の再調査には消極的な意見が相次いだ。
このままでは忘れられる――。
これまで再調査を拒み続けた安倍晋三・元首相にも菅義偉・前首相にも、手紙を出したことはない。だが、岸田文雄氏が新首相に決まったことで、本人に直接思いを届けたい気持ちが湧いた。
「岸田首相は、『特技は人の話をしっかり聞くこと』と記者会でも言ってました。だったら、ぜひ話を聞いていただきたいと思いました」
6日、岸田首相に宛てた手紙を書いた。執筆を思い立ったのは、手紙を出した日の朝だったという。
■手書きにこだわった理由
手紙は続く。
「赤木ファイルの中で夫は改ざんの書き換えをやるべきではないと本省に訴えています」
「夫が正しいことをしたこと、それに対して財務省がどのような対応をしたのか調査してください」
便せんに2枚。ボールペンで、一気に書き上げた。
「パソコンで打ち出したものより気持ちが伝わると思って」
と、手書きにこだわった理由を話す。
手紙は配達証明郵便で送り、翌7日には岸田首相の元に届いているはずだという。