
「いま北朝鮮が進めているのは、近距離の敵の軍事目標を核攻撃する戦術核の保有です。そのためには核の小型化と、核搭載可能な新型戦術誘導ミサイルの前線配備、移動中の原子力空母などを捕捉するための偵察衛星も必要になってくる。一方、大型で“怪物ICBM”と呼ばれる火星17は、核弾頭が複数入る多弾頭搭載型です。さらには、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の北極星4号、5号の発射実験も近く行われるはずです。一連の軍事スケジュールをにらみながら、核実験は行われるのではないか」
米中間選挙の結果も影響しそうだ。金正恩氏はトップ会談ができるトランプ氏の復権を望んでいるだろうが、大勝を逃した共和党失速の責任を問う声が上がる始末。一方、バイデン大統領も民主党が下院での過半数を失えば、内政・外交両面で厳しい運営を余儀なくされる。前出・裴氏が語る。
「守勢のバイデン政権をさらに圧迫して対話テーブルに着けさせる狙いもありそうですが、核実験のカードは大した政治的効果が期待できそうにありません」
北朝鮮が最も警戒しているのは、米軍特殊部隊による最高指導者を狙った「斬首作戦」だ。はたして米国が強硬手段に出る可能性はあるのだろうか。米国政治に詳しいジャーナリストの堀田佳男氏が指摘する。
「金正恩氏暗殺もオプションとしてはあると思いますが、私はその可能性は低いと思います。米シンクタンクによると、米政府内は北朝鮮が現実的に核兵器を放棄することはないだろうという認識で一致しているといいます。ですから、パキスタン・モデルを取るのではないかとの見方をしています。パキスタンは核保有国ですが、国際社会の圧力によって1998年を最後に核実験は行っていません。北朝鮮にも核保有を当面は認め、新たな実験を凍結するよう仕向けるのではないか」
内憂外患に揺れる米国に、北朝鮮との緊張緩和に向けた対話の道は視野にあるのだろうか。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2022年11月25日号