
■衝撃的なスター性
安藤:ありがとう。彼女が過ごしてきた時間をどう伝えるかというプランはまったくなく、あのシーンは演じてみないとわからないなと思っていたんですよね。窪田君は完全に謎な役だったけど、私は家族として一緒にお芝居を重ねていく中で、とても素直な方なのではないかと推測したんです。私はあまり人を見る目がないのでわからないんですけど(笑)。この映画で私の記憶に残っているのは、笑っている顔はすごく少ないはずなのに大祐の笑顔なの。私は映画を見た時一コマ一コマが印象に残る感じなんですけど、それで言うと、妻夫木さんは最初の飛行機に乗っている姿ですね。衝撃的なスター性にドキッとしました(笑)。
窪田:映画を見た時に、僕は妻夫木さんの背中に実力が表れていると思いました。すごく理不尽な世界の中で生きているという、重さのようなものをずっと感じていたんです。きちんとお会いしてご挨拶ができたのは、僕の撮影の一番最後の日だったと思いますが、妻夫木さんがちょうどインスタを始められた時だったんですよね。僕の写真を撮っていただいて、インスタにあげていただいたのがすごく嬉しかったです(笑)。
──他のだれかになり代わって人生を歩んでいた男。俳優という職業もまた、だれかになるという意味では通じるところがあるのではないだろうか。
3人には自分とは違う誰かになりたいという欲望はあるのだろうか。
妻夫木:自分ではない誰かになりたいという思いはあるかもしれません。僕は中学生になるもっと前からかな、人間観察がすごく好きなんです。渋谷のスクランブル交差点にずっといたこともあります。でも多分、今は相手が僕を認識していることが多いからそれはできない。みんながやっている普通のことを普通にやってみたらどうなるのか、という思いはあるかもしれません。

■人生を面白がれるか
窪田:僕は誰かになりたいと思ったことはないですね。人を観察することはありますが、僕の場合はその人を噛み砕いていいなと思うところやリスペクトするところを自分の一部にしたい。疑似体験をするというイメージですかね? 俳優はアウトプットをし続ける仕事だと思うので、必然的に中身が空っぽになってしまう。僕はそのためにインプットを心がけています。役者は純粋にシンプルに人生を面白がれるかどうかだと思うんですよ。それと役者として仕事をするというのは表裏一体だと思う。私生活が豊かでないと感情が閉ざしていくのではないかと思うので、そこは充実させたいです。