平野啓一郎のベストセラー小説『ある男』が映画化された。“ある男”の正体を追う弁護士・城戸を演じた妻夫木聡と亡き夫の身元調査を依頼する里枝を演じた安藤サクラ、“ある男”を演じた窪田正孝が撮影から俳優業まで語り合った。AERA 2022年11月21日号の記事を紹介する。
* * *
──離婚した里枝(安藤)は子どもを連れて帰った郷里で大祐(窪田)に出会い、再婚する。幸せな家庭を築いていた彼女だったが、ある日、大祐が事故死。葬儀にやってきた大祐の兄は遺影を見て彼が大祐ではないことを告げる。
愛した夫は誰なのか?
里枝は離婚時に世話になった弁護士の城戸(妻夫木)に大祐の身元調査を依頼する。
妻夫木と安藤が共演を果たすのは本作で3度目、窪田が二人と同じ映画に出演するのは初めてだ。脚本を読んだ妻夫木は当初、原作が長編小説だけに、2時間の映画に集約することへの不安があったと言うが……。
妻夫木:原作を読んでいた中で、僕が思い描いていたイメージを良い意味でみなさんが裏切ってくださいました。お二人が演じることによって魂が宿った感じがすごくありました。特に、大祐は勝手に謎めいた役だと感じていたので、窪田君が演じることによって生を得た、というか、実際の生きた大祐を見たという気がしました。里枝という人も安藤さんが演じることで、(愛する夫の正体を知らなかったという経験をしたにせよ)最終的にそれでも生きていくんだと、僕たちも見終わった人たちも納得させられる、説得力を持ったのではないかと思います。
窪田:妻夫木さんと一緒にお芝居するシーンは残念ながらありませんでしたが、お二人と同じ作品に出演させていただいたことが何より嬉しかったです。大祐には「心に傷のある人」というものをすごく感じましたが、それはサクラさんと一緒に演じられたからこそ。里枝もどこか大祐と似ている部分がある。(離婚や子どもとの死別といった)過去を背負っているというのが、実際感じられました。そういう空間の中でお芝居ができるというのは本当にうれしく、「ゾーンに入る」ような経験を何度もしました。里枝が亡くなった子どものことを話しているシーンは本当にその子がいたかのようでした。