ロシアからミサイル攻撃されるウクライナ西部の都市リビウ/10月10日(写真:ZUMA Press/アフロ)
ロシアからミサイル攻撃されるウクライナ西部の都市リビウ/10月10日(写真:ZUMA Press/アフロ)

 アイルランド人夫婦との関係は良好だ。バリアさんは英語が話せないため、エージェントの担当者を通じておなかのエコー写真を送り、赤ちゃんの様子や自身の体調について連絡を取り合っている。エージェントの対応にも満足しているという。

 ただ、戦争が暗い影を落としていることも事実だ。戦争前にアイルランド人夫婦と結んだ契約では、出産や体調変化に備え、妊娠6カ月になったらリビウの代理店近くに引っ越すことになっていた。

 しかし、夫婦は戦争を心配し、妊娠4カ月になるとリビウへの引っ越しを求めてきた。リビウでのアパートの費用や食費などはすべて、夫婦が支払っているという。

「私にとっては自宅で過ごすほうがいいのですが、依頼人の夫婦やエージェントの指示に従います」(バリアさん)

 子どもは祖父母とリブネに残った。バリアさんは1人でリビウに暮らし、子どもが時々訪ねてくるのを楽しみにしているという。

■戦争ニュースは見ない

 また、契約では出産前に夫婦はリビウに来ることになっている。だが、戦争で実際にいつ来るのか、バリアさんは7月の時点で、まだ知らないと言い、「戦争がなければとっくにリビウに来ていると思う」と少し表情を曇らせた。

 最も苦労したことを尋ねると、「この戦争を受け入れることだった」とバリアさんは言う。リブネにも砲撃があったが、「テレビやスマホで戦争に関するニュースはできるだけ見ないようにしている」。

 9月下旬、赤ちゃんは無事に生まれた。アイルランド人夫妻は出産前にリビウに到着。赤ちゃんと5日間産院で過ごし、赤ちゃんを連れてアイルランドに帰っていったという。

(朝日新聞記者・丹内敦子)


AERA 2022年11月21日号より抜粋

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