菅谷憲夫医師(神奈川県・けいゆう病院)
菅谷憲夫医師(神奈川県・けいゆう病院)

「例年の1.5倍の感染者が出た地域もあり、今年は異例の流行でした。さらに例年だと少ない3~5歳の感染者も多く、重症化する傾向がみられました。昨年流行しなかったことで、十分な免疫をもっていなかったと考えられます。また通常は、秋口に流行しますが、今年は初夏に季節外れの流行となりました。海外からRSウイルスが持ち込まれたことで、流行の時期がずれたのではないかと考えられます。このRSウイルスの今年の流行に似たようなことが、インフルエンザでも起こるのではないかと懸念されます」

 こうした点から日本感染症学会では、今シーズンもインフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨している。

供給量は昨年より約2割少ない

 気になるのがワクチンの供給状況だ。昨年はワクチンの製造効率が高く、例年に比べて供給量、使用量ともに多かったが、厚生科学審議会によると、今年は昨シーズンの供給量より2割程度減少することが見込まれている。また、10月の供給量が少なく、12月2週まで供給される見込みで、例年と比べると供給のタイミングが後ろにずれこむとみられている。

「特にインフルエンザ脳症を起こすリスクがある生後6カ月以上5歳未満の乳幼児のほか、重症化しやすい65歳以上の人、慢性呼吸器疾患(気管支ぜんそくやCOPD)や心血管疾患など基礎疾患がある人、妊婦などはワクチンで予防することが大事です」

同時流行で医療機関パンクの恐れ

 インフルエンザワクチンは、日本では13歳以上は1回接種、13歳未満は2回接種となっている。13歳未満の場合、2回接種後のほうがより高い抗体価の上昇が得られるためだ。ただし、欧米では、9歳以上であれば1回接種としている。

「10歳前後であれば、1回でも十分に抗体価が上昇するので、1回しか接種できなくても慌てなくていいと思います」

 もちろん、ワクチンを打っても打たなくても感染対策は不可欠だ。

「昨シーズン、インフルエンザが流行しなかったのは、出入国制限や水際対策のほか、マスク、手洗い、ソーシャルディスタンスが習慣化されたことだと考えられます。つまり、新型コロナウイルスの感染対策は、そのままインフルエンザ予防にも有効です」

 インフルエンザと新型コロナウイルスが同時流行すると、インフルエンザを発症した場合、医療がパンクして適切な時期に治療を受けられない可能性もある。

 緊急事態宣言は明けたが、引き続きの感染対策と早めのワクチン接種で、冬が本格化する前から予防を徹底しておきたい。

(文/中寺暁子)

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