「休息中に豆からひいたコーヒーを無料で提供しています。有料なら帰る人もいるけど、無料だったら飲むでしょう? 必ず休んでもらって、この時間で会員同士の交流を深めてもらいたい」(同)
オープンから1年が過ぎ、手応えを感じているという梨本さん。
「初めて共通の趣味ができたと喜ぶ80代のご夫婦もいます。ゲームが共通の話題となり、楽しい時間が共有できる。それが心のよりどころになり、健康寿命を延ばすことにつながると感じています」
一方、神戸市は、NTT西日本、eスポーツ事業を運営するPACkageと昨年7月に連携協定を結び、12月からeスポーツが高齢者のフレイル予防に効果があるかを検証する実証研究を始めた。前出の「ISR e‐Sports」も参画している。
NTT西日本の酒谷慎介さんが説明する。
「コロナの影響で外出が減っています。神戸市は高齢化が進んでいる上に、高齢者のフレイル(加齢による虚弱状態)も加速しています。eスポーツはオンラインで自宅や施設でもできますし、高齢者のコミュニケーションの活性化やフレイル予防などの可能性があるのではないかと考えました」
今年1月から3月まで、高齢者サービス事業者の協力を得て通所施設に機材を持ち込み、週3回、eスポーツ体験会を実施。「ぷよぷよ」やドライビングシミュレーター「グランツーリスモSPORT」などを試してもらい、心拍数や睡眠時の各種バイタルデータを測定、効果を検証してみた。
「女性の参加者が多く、ゲームだけでなく、スタッフや他の高齢者とのコミュニケーションを楽しんでいらっしゃいました」(酒谷さん)
体験会の最終日にはeスポーツ大会を開き、参加者に心拍数計をつけてもらったところ、ゲーム中に盛り上がって心拍数が上がる人もいたという。
「心拍数を上げることが認知症予防に効果があると聞いています。また、参加者同士や観戦者とのコミュニケーションが活性化すること自体がフレイル予防になるのではと予測しています」(同)
eスポーツがフレイル予防に効果があるという学術的な裏付けを取るには今後も研究が必要といい、神戸大学との連携を模索している。神戸市も期待を寄せており、今後は高齢者以外の年齢層にもアプローチし、地域交流などに役立てたいと考えている。