余命数カ月など、限られた時間が見えている場合は特に、家族としては「何かしてあげなければ」という気持ちが強くなりがちだ。具合の悪い人が家の中にいると、家族も気を使い、静かな環境を整えようと、なるべく音を立てないように過ごす人も多いという。だが、静寂や沈黙は、かえって心の緊張を生み出しかねない。これまで千人を超える人の最期を家で看取ってきた千場純医師(三輪医院院長)は言う。

◆死に向かう変化を前もって知る

「普段どおりの生活が患者の気持ちを和らげます。テレビや掃除機の音、家族の話し声などに、ホッと安心して癒やされる。患者は往々にして、自分が厄介なお荷物にならないかと不安に思ったり、家族に苦労や心配をかけたくないと思い悩むもの。そんな気持ちに寄り添って、一緒にテレビを見たり、話をしたり、ただ黙ってそばにいるだけでもいい。患者の心が独りぼっちにならないように気をつけながら、普段どおりに過ごすほうがよい」

 残された時間や病気の進行に向き合うのは、誰しも怖い。だが、病気の段階を理解することが、納得できる最期を過ごすための大切な条件になる。病気の現状把握ができていないと、本意でない選択をしてしまったり、すぐに実行に移せばできたはずのチャンスを逃してしまったりと、後悔につながることもある。前出の中村医師は言う。

「病状を知りたい、今の段階を聞きたいと思ったら、勇気を出して医療者に聞いてみて。『これからどうなるのか』『残された時間はどれぐらいあるのか』『今、家に帰ることもできるのか』と。もし入院していて家に帰ろうか迷ったときは、『病院にいるときと、家にいるときと、医療の仕方は何か差がありますか?』と聞いてみたらいい。そこで医師が言葉を濁すときは、治療のフェーズが終わっていることを疑ってみてもよいかもしれません。残された時間が少しでも長いほうが、満足いく在宅療養期間を過ごすことにつながります」

(フリーランス記者・松岡かすみ)

週刊朝日  2021年10月29日号より抜粋

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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