「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。今回は、コロナ禍の旅で感じた空港の「空気」の違いについて。
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エチオピア航空を利用し、エジプトのカイロに行ってきた。コロナ禍の旅である。訪ねる国にウイルスをもち込まず、日本にもち帰らないためにできるだけのことをした。
出発1週間前から自宅で自主隔離。そして出発前にPCR検査。日本は帰国者にPCR検査を課しているから、カイロで検査を受けた。
エジプトは感染者が多くないためか、日本で空港近くのホテルに隔離される強制隔離は免除されていた。自宅で自主隔離になる。しかし自宅に直接帰るのも心配で、成田国際空港近くのホテルに3泊した。2日目に唾液を送ってPCR検査を受け、陰性の連絡を受けて自宅に帰った。
検査費だけで6万円近くかかった。コロナ禍の旅は費用がかかる。
エチオピア航空は成田国際空港を飛び立つと、ソウルの仁川国際空港、アディスアベバのボレ国際空港に寄ってカイロに向かう。
仁川国際空港は成田国際空港によく似ていた。イミグレーションに向かう通路に椅子やテーブルが並べられ、入国前チェックが行われる。何枚もの書類を埋め、事前にそろえた書類をチェックしてもらう。職員は防護服をまとい、マスクにフェイスシールド。通路には緊張感が漂っている。乗客の不安そうな顔が並ぶ。
通路の壁や柱には順路やチェックの内容、注意事項などが書かれた貼り紙が目立つ。災害時の避難所にどこか似ている。
これまで順路などは何回も変わってきたのだろう。混乱の残滓のような貼り紙も多く、乗客は戸惑ってしまう。
コロナ禍だから、そう多くの空港を経験したわけではない。しかしバンコクのスワンナプーム空港を加えたアジアの3空港を利用した。どこも似た空気が流れていた。ざらついた緊張感といったらいいのだろうか。