大学発ベンチャーはいま、年々増える傾向にある。経済産業省は今年5月、「令和2年度産業技術調査(大学発ベンチャー実態等調査)報告書」を発表。2020年度に存在する大学発ベンチャーは過去最多の2905社だった。背景には、起業のための資金集めを支える大学ファンドの増加が指摘されている。14年に「産業競争力強化法」が施行され、国立大学法人が、起業を支援するベンチャーキャピタル(VC)に出資できるよう規制が緩和された。14年には京都大と大阪大が、16年には東京大が、大学自ら100%出資するVCを設立した。

 表は、前述の経済産業省調査による大学別ベンチャー企業数ランキングだ。トップ3は前出の東京大、京都大、大阪大で、上位には国立大学が並ぶ。私立大では、慶應義塾大(10位)が15年に野村ホールディングスと共同でVCを設立。早稲田大(10位)は18年に外部のVC2社と提携を結び、ベンチャー創出をめざす。東京理科大(7位)は18年にVCを設立して以来、大学発ベンチャーの数が急伸。18年度の10社から、20年度には111社にまで増えた。

 注目を集めているワクチン関連以外にも、研究力を生かして成功する大学発ベンチャーは多い。ミドリムシを活用した食品・化粧品を開発するユーグレナ(東京大)、iPS細胞関連の研究支援事業を行うリプロセル(京都大、東京大)、再生細胞薬の研究・開発を行うサンバイオ(慶應義塾大)などはいずれも株式上場を果たしている。

■大学が研究のシーズを発見できていない

 大学が企業と共同研究したり、起業したりするメリットは何か。石井教授はこう話す。

「大学の研究者は好奇心で研究をしていることが多いと思いますが、そのなかでも例えば新薬につながりそうな研究をしている先生が、自分の興味関心でベンチャーを立ち上げるということはありました。その一方で、大学が研究のシーズ(製品やサービスの種)を発見してベンチャーを立ち上げる例も、海外にはたくさんあると思います。日本はこの流れがなかなかできていない状況ではあるのですが、近年はサポートファンドが増え、起業のための資金が集めやすくなっています」

 大学がかかわるコロナワクチン開発には、こんな期待を寄せる。

「今はコロナ関連事業にはお金が飛び交っているという状況もありますが、ワクチンは人々の命を守る公衆衛生の要の医療技術であり、お金儲けのためのものではありません。世界の人々にすべてワクチンがいきわたるまで、決してパンデミックは収束しないでしょう。いまこそ利他的になる社会を再構築するチャンスにするべきです」

 大学の研究力を社会に還元する大学発ベンチャーの活躍に注目したい。

(白石圭)