展覧会場で最も人気のあった絵が横尾先生の嫌々描かれたものだということは、私の中でとても印象的でした。
自分が良いと思うものと、他者が良いと思うもの、その違いに驚くことがあります。例えば、自分の写真です。自分で選んだ写真より、笑って頬の肉がこんもり盛り上がり肉まんのような顔の写真のほうが他者から好まれたり、「どこがいいの?」と舌打ちをしたくなるような写真を提案されたり。自分より他者のほうが、自分の良い顔や魅力を知っているのでしょうか。
横尾先生は、その絵が一番人気だとお知りになったとき、どんなお気持ちでしたか?
横尾先生にお話しするのは恥ずかしいくらいですが、実は私も絵を描くのが好きです。風景画などではなく、人の顔や動物です。アートとは言えず、落書きみたいな漫画です。自分の本でも挿絵として時々描いています。
私の絵を絶賛してくれる人は二名、瀬戸内と自分の母親です。瀬戸内は私の絵を過大評価し、その挿絵分のお金を貰えと言いますが、お金がとれるようなものではありません。イラストで食べていけると太鼓判を押してくれますが、推薦者は二名のみです。(しかも身内)
一度、藤子不二雄(A)さんと偶然お会いしたことがあったのですが、皆「あびちゃん」と呼んでおり、私はお顔を存じ上げなかったので、漫画家ということだけを聞き、「私の絵、どうでしょうか?」など図々しくも聞いたことがあります。「いいじゃない」とあたりさわりのないコメントをくださいましたが、後で知って驚きました。無知は無敵だなと自分に呆れます。
横尾先生に憧れ、弟子入りを希望する人はたくさんいると思います。独学の、現代美術の真逆の様式を学びたい人はたくさんいると思います。人に教える、ということに興味はございますか?
(推薦者が二名いるからと私が弟子入りを希望しているわけでは決してございません。恐れ多いです。)
まなほ
※週刊朝日 2021年11月5日号