展覧会場で最も人気のあったセクションは近作の寒山拾得シリーズを展示した一番広い空間でした。ここに並ぶ三十数点は展覧会の始まる3カ月ほどの間に描いた作品で、嫌や嫌や気分で、「もう描くのは飽きた」という思いで描いた作品ばかりが展示されています。ところが、そんな僕の気分と裏腹にこの嫌や嫌や描いた絵が一番人気がありました。手も腱鞘炎で、まともに筆も持てません。描くというより筆をキャンバスに叩きつけて描いた作品群ですが、それが今の僕にとっての自然体です。

 最終日にはアメリカの現代音楽の巨匠のテリィ・ライリーさんが来てくれて、自分の人生にとって、この展覧会は大きい出来事だった、今後親密な交友関係を約束しましょうといってくれました。1960年代からの憧れの芸術家です。老齢になって出会う人は前世からの因縁だといいます。彼と僕は、ひとつ違いで彼が上です。彼との邂逅は未来から差してくる青春の光だと思いました。

◆瀬戸内寂聴「いつもの瀬戸内に戻りつつあります」

 横尾先生へ

 瀬戸内寂聴の秘書瀬尾まなほです。瀬戸内の体調が良くなく、寝込んでいるため私が代わりに書かせていただいてから今回で続けて四回目になります。

「またお前かよ」という落胆の声が聞こえてくる気も致しますが、次回こそ、瀬戸内が返信を書くと思います。

 だいぶ体調は良くなり、普通に冗談も言え、アイスクリームも食べ、いつもの瀬戸内に戻りつつありますが、しばらく寝ていたため体力が落ちており、書く気力がまだ起きない状況です。最近リハビリも開始し、体力を戻すために歩き始めたりしているので、ご安心ください。

 たて続けに開催された横尾先生の4本の展覧会を無事に終えられたとのこと、お疲れ様でございました。連日大盛況だと伺っており、行けなかった悔いが残ります。瀬戸内もとても行きたがっていたので、残念です。知り合いの編集者の方が「GENKYO 横尾忠則」展に行かれたそうなのですが、偶然にも横尾先生が来場され、横尾先生の周りにあっという間に人だかりができ、来場者の方は個性的でおしゃれな方が多かったそうです。

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