悩みとは、私が息子に対して、「こういうところを改善してほしい」と思っている点、つまりよくないと思っている部分を指すわけです。

 もちろん、悩みがないわけではないので相談をしたいのだけれど、そんなことを息子の目の前で発言するのはためらわれ、小さな声で、「そういうことは子どもがいないときに話したい」と伝え、「次回の検査のときは、子どもを連れてこなくてもよいか」と尋ねました。

 すると役所の人は、明らかに不信感を抱いた声で、私にこう言ったのです。

「子どもの様子をこちらに見せることに、何か不都合なことでもあるんですか」

 私が意図した、「息子の前で悪口のようなことを話したくない」という気持ちとはまったく別の、なにやら隠したいことでもあるような方向に受け取られましたが……親として、そういう気持ちを持つことは、そんなにおかしなことでしょうか。

 ここの役所では、どの親もみんな、子どもの目の前で悩みを相談しているのでしょうか。

 ひどく疑問に思いましたし、もし実際にそうだとしたら、子どもの尊厳をないがしろにしすぎです。 

■「あなたならできる」という言葉をたくさん使おう

 しかもこうしたことが、役所だけでなく、病院の検査でも結構あるのです。

「親が子どもの悩みを相談している間は、一時的に子どもが遊べる(あるいは預けられる)場所を作る」などの対応策を考えてもらえたら、と願うばかりです。

 周囲の話を聞いていると、世の中には、子どもに対して、「自分の子だし、まあこんなものだろう」と思っている人が多い気がします。

 伸び悩んでいる子の親から、「期待していいものなのか、わからない」と、相談されたこともあります。

 でも、子どもの前で、その子に対しての評価を話すときは、可能なかぎり良い点だけにとどめておきたいものです。

 悪い点ばかり指摘していると、本当にそのとおりの子どもに育ってしまいます。

 できたら、「あなたならできる」という言葉を、当たり前だと思えるくらい、たくさん使いましょう。

 それに、「絶対に伸びる」「いいところが多い」と期待しながら育てたほうが、親にとっても子どもにとっても、将来的な楽しみが増えるのではないでしょうか。

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杉山奈津子

杉山奈津子

杉山奈津子(すぎやま・なつこ) 1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、うつによりしばらく実家で休養。厚生労働省管轄医療財団勤務を経て、現在、講演・執筆など医療の啓発活動に努める。1児の母。著書に『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』『「うつ」と上手につきあう本 少しずつ、ゆっくりと元気になるヒント』など。ツイッターのアカウントは@suginat

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