
そこで大木さんは本のページをめくり、「それよりも、こっちのほうが、おもしれえだろうな、と」、地図に記された赤い線、今回の旅のルートを指した。
それはほぼ北緯40度ラインにあたるという。
「要するにね、人間がいちばん住みやすいところ。豊穣の世界。文明が発祥して、いろいろなことが起きた。このルートはかつての交易路、シルクロードとも重なる。だから、ここに行ってみたい、と思ったわけ」
■見られちゃマズい画像は山ほどある
そんな地をはうような鉄道旅で「面白いのは国境越えなんだよ」と、大木さんは言う。
なかでも印象深かったのは中国-カザフスタン国境。
「国境を越えるとね、景色がガラッと変わっちゃう。同じ乾燥地帯なんだけれど、中国側は河川の水をかんがいして、作物を育てたりする経済力がある。でも、カザフスタンにはない。だから、同じ河川が流れているんだけど、こっちは単なる乾燥地帯なんだ。1本の国境が、生活や景観まで変えている」

さらに、この国境越えは別な意味でも強く記憶に残った。
「中国は出国がすごく大変だったの。ふつう、入国のときに調べるじゃない。ところが、ここは出国も調べるんだよ。要するに、まずい情報を持ち出されないか、チェックしている。それに、反体制的な人物がカザフスタンに逃げるのを防ぐため、ものすごく厳重に調べているみたい。そのとばっちりをくらうわけ」
カザフスタンはいま国際的な人権問題になっている新疆(しんきょう)ウイグル自治区と接している。事前の情報では、出国検査の際、所持している画像はすべて見せなければならない。
「見られちゃマズい画像は山ほどあるからさ」。そう言って、大木さんはニヤリと笑う。
■そう簡単には引き下がれない
日本で鉄道を撮影しても警察沙汰になることはめったにない。しかし、海外では何げなくレンズを向けたつもりでも、警察に捕まることが珍しくない。
「写真撮影については、この本のなかで、国別にまとめたけれど、けっこう大変。この40年くらいの間にずいぶん捕まっているよ(笑)。ヨーロッパ、ロシアでも。駅で写真を撮っていたら警察に連れていかれて、調書と指紋、顔写真を撮られてさ。そんなとき、大切なのは、主張すること。情報を盗み取る意図はない、ということをきちんと説明しないとダメだね。それができれば、撮影に関してそんなにビビることはない。どんどんやっていいと思うけどね」