中国・ハルビンから北京まで「硬座(2等座席車)」で移動しました。混雑した10時間を超える行程でしたが、和気あいあい楽しい旅です(撮影:大木茂)
中国・ハルビンから北京まで「硬座(2等座席車)」で移動しました。混雑した10時間を超える行程でしたが、和気あいあい楽しい旅です(撮影:大木茂)

 そこで大木さんは本のページをめくり、「それよりも、こっちのほうが、おもしれえだろうな、と」、地図に記された赤い線、今回の旅のルートを指した。

 それはほぼ北緯40度ラインにあたるという。

「要するにね、人間がいちばん住みやすいところ。豊穣の世界。文明が発祥して、いろいろなことが起きた。このルートはかつての交易路、シルクロードとも重なる。だから、ここに行ってみたい、と思ったわけ」

■見られちゃマズい画像は山ほどある

 そんな地をはうような鉄道旅で「面白いのは国境越えなんだよ」と、大木さんは言う。

 なかでも印象深かったのは中国-カザフスタン国境。

「国境を越えるとね、景色がガラッと変わっちゃう。同じ乾燥地帯なんだけれど、中国側は河川の水をかんがいして、作物を育てたりする経済力がある。でも、カザフスタンにはない。だから、同じ河川が流れているんだけど、こっちは単なる乾燥地帯なんだ。1本の国境が、生活や景観まで変えている」

警戒厳重な中国-カザフスタン国境。ある意味で西欧文化の極東、東洋文化の西端の境目であったかもしれません。列車はそろりと通り抜けます(撮影:大木茂)
警戒厳重な中国-カザフスタン国境。ある意味で西欧文化の極東、東洋文化の西端の境目であったかもしれません。列車はそろりと通り抜けます(撮影:大木茂)

 さらに、この国境越えは別な意味でも強く記憶に残った。

「中国は出国がすごく大変だったの。ふつう、入国のときに調べるじゃない。ところが、ここは出国も調べるんだよ。要するに、まずい情報を持ち出されないか、チェックしている。それに、反体制的な人物がカザフスタンに逃げるのを防ぐため、ものすごく厳重に調べているみたい。そのとばっちりをくらうわけ」

 カザフスタンはいま国際的な人権問題になっている新疆(しんきょう)ウイグル自治区と接している。事前の情報では、出国検査の際、所持している画像はすべて見せなければならない。

「見られちゃマズい画像は山ほどあるからさ」。そう言って、大木さんはニヤリと笑う。

■そう簡単には引き下がれない

 日本で鉄道を撮影しても警察沙汰になることはめったにない。しかし、海外では何げなくレンズを向けたつもりでも、警察に捕まることが珍しくない。

「写真撮影については、この本のなかで、国別にまとめたけれど、けっこう大変。この40年くらいの間にずいぶん捕まっているよ(笑)。ヨーロッパ、ロシアでも。駅で写真を撮っていたら警察に連れていかれて、調書と指紋、顔写真を撮られてさ。そんなとき、大切なのは、主張すること。情報を盗み取る意図はない、ということをきちんと説明しないとダメだね。それができれば、撮影に関してそんなにビビることはない。どんどんやっていいと思うけどね」

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ペルシャを通らないと成立しない