自分の大腿部の筋肉を約2~5グラム採取して、そこから筋肉の元になる細胞(筋芽細胞)を培養する。それをシート状にして患者の心筋の上に貼り付けて、心筋(心臓の筋肉)を補強する治療だ。

 画期的な治療だが、筋肉採取と貼り付けという2回の手術を受ける必要がある。

「治療により心筋が作られるわけではないのですが、臓器を保護したり新しい血管や組織を作る助けとなる物質が放出される効果はあります。要するに心筋細胞を守り心不全の進行を防ぐのが主目的の治療です」(筒井医師)

 筒井医師の九州大学でも心臓血管外科でこの治療がおこなわれている。現在までに2例が実施された。治験のデータでは、7人中6人で心不全の自覚症状の改善が認められ、心エコーによる左室駆出率が26週間で約7・1%上がった。

 この結果をふまえて、15年、条件付きで保険承認された。

「わが国でしか受けられない治療ですので期待は高まりますが、虚血性心疾患の患者さんのみが対象であること、自分の骨格筋を貼り付けるので、開胸手術に耐えられることが条件であることなど、ハードルは高いです。心不全が悪化するのを抑制するというデータは出ていますので、将来的には重要な治療選択肢となることは確かでしょう」(同)

 大阪大学から始まったハートシート治療は、今後の研究治療の効果によってはさらに普及していく可能性がある。現在、大阪大学をはじめ、全国の主要8施設で研究治療が実施されている。

 その中の一つで、国内5番目の実施施設である順天堂大学順天堂医院も、昨年10月から実施し始めた。同院心臓血管外科教授の浅井徹医師はこう話す。

「補助人工心臓の装着や、心臓移植を待たなければならない重症心不全の患者さんのために役立てればいいと思います。ただ、そのためには、われわれを含めた8施設の研究治療を蓄積して、長期にわたり成績を追跡しなければならないと思います。まだ発展途上の治療と言えます」

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