延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
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 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。アレクサンダー・ロックウェル監督について。

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「こんな感じでいきたいね」。『村上RADIO』を始める前、ドナルド・フェイゲンの『ナイトフライ』のアルバム・ジャケットを眺めながら村上春樹さんと話し合った。

 ジャケットではネクタイを緩めてタバコをくゆらせた男がマイクに向かっている。ターンテーブルには1枚のレコードが置かれていて。

 僕たちはアメリカンスタイルのDJを目指した。たった一人で好きな曲を好きなだけかけ、喋りたいことを喋る。耳を澄ますのはラジオの前の一人のリスナー。1対1のラジオはインディペンデントなメディアである。

 ジム・ジャームッシュとともにアメリカインディーズの象徴、アレクサンダー・ロックウェル監督と話す機会に恵まれた。

 公開中の『スウィート・シング(SWEET THING)』は一篇の詩のような作品だった。15歳のビリーと11歳のニコ。「このうえなく悲しいけれど、このうえなく幸福なファンタジー」とパンフレットに書かれている。

 ビリーとニコの姉弟を演じるのは監督の実の子どもたち。自己資金とクラウドファンディングで撮影を始め、スタッフに、彼が教鞭をとるニューヨーク大学(NYU)大学院の学生を起用し、「撮りたい映画を愛情だけで作ったんだ」と微笑んだ。母親役は彼の妻、こよなく子どもを愛する飲んだくれの父親は、監督の親友の性格俳優ウィル・パットン。

 妻に逃げられた揚げ句、酒の飲み過ぎで強制入院になった父。所在のなくなったビリーとニコは母親のもとに行くが、彼女は変態のボーイフレンドと住んでいた。そんな姉弟の心情をモノクロの粗い映像が表し、ヴァン・モリソン、ネルソン・エディ、シガー・ロスの音楽が温かく包んでいる。

「これは音楽映画でもあるね。娘ビリーの名前はビリー・ホリデイにちなんでいるんだろう?」と訊くと、「僕はビリーのビッグファン。彼女は自分ならではの唄い方をする。彼女しかできない唄い方でストーリーを語る。NYUの学生にも言うんだ。『自分』を意識しろって」

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