「父役のウィル・パットンは、(詩人の)チャールズ・ブコウスキーそっくりじゃないか」「彼は僕のヒーロー。試写会に来てくれた時、酒瓶を落とし、コロコロ転がってスクリーンの前まで転がってね(笑)。温かい心を持っているのに過酷な世界に追いやられている。ブコウスキーのそんなところが今回の父に似ているんだ」。
16ミリフィルムにこだわるわけは「デジタルは脳を疲れさせるが、フィルムはアコースティックの楽器。繊細で優しい。砂浜、星空は絶えず変わるだろう。アナログはそれを滑らかに表現してくれる」
インディーズ映画は小さな国だと監督は語る。
「メジャーという大国が支配する中で、何とか生きながらえ、大切な個人の声を届けている。インディペンデントな声は存続させなければならない」
是枝裕和監督の『万引き家族』から、子どもや親である自分について多くを学んだと言う。
「それと同じように『スウィート・シング』も観てほしい。個人の物語はとても大切な言語なのです」
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2021年11月19日号