<私の所から早く巣立って、自分の中に眠っている可能性の種を育てて、鮮やかな大輪の花を咲かせなさい。死なない私はモナが九十二のお婆さんになっても、傍についていてあげます>
寂:まなほに宛てて書いたって一銭にもならない(笑)。
ま:たぶん本当にただ忙しくて、「せっかくだから、ここで手紙の返事を書こう。そしたらお金にもなるし、まなほも喜ぶし」とひらめいたんじゃないですかね(笑)。
寂:まなほは文才が初めからある。手紙が素直でね、とてもいいの。この人にこう書きなさい、なんて言ったことない。
ま:一度私が手紙を書いたときに先生の部屋をのぞいたら、「あんた本当優しいね」ってちょっと泣いてたことがあったんですよ。
寂:目がかゆかったんじゃない?
ま:そういうことしか言わないんだから~。でも、それはすごく覚えています。先生は、「秘書も書く仕事もどっちもできないから、秘書を辞めて書く仕事に専念しなさい」って言ってくれたけど、先生を見てるから書くことだけで生きていける自信は全くないし、まして小説も書けない。どうしても書くことで生きていく覚悟ができない、ってこの本の中で書いたんです。
寂:でもね、初めての本が売れて、すごいお金が入ってきたの。借りたいぐらいよ。だからやっていけますよ。運もいいのね。1冊だけでこれだけ売れたってことはすごいことなの。おもしろくなかったら人は買いません。おもしろいから読んでくれたんですよね。
ま:先生は今日もわざと私にいやなこと言って、私が耳を引っ張ったら「そんなのクビだ」って。そんなやりとり、毎日ですよ。もう8年一緒にいます。
寂:8年って感じ、しないね!
ま:いつも2、3年って言われる(笑)。だけどこの本では、先生はかまわれすぎるのが嫌、基本一人が好き、とも書いています。
寂:そう、一人が好きなの。スタッフたちは午後5時に帰ってしまうから、夜は一人です。
ま:先生が「夜ぐらい一人にさせて」と言ったんです。周りの人から見たら、97歳を一人にするなんてけしからんって怒られるかもしれないんですけど、本人がそれを望んでいたら、私たちはむげにそれを断れない。一人で夜な夜な台所に来てお菓子食べて、お酒も飲んで、自由にしていますよ(笑)。
寂:ちょっとほっとするの。
>>【後編】「瀬戸内寂聴が明かす、寂庵のスタッフが“若返る”理由」へ続く
(構成/本誌・緒方 麦)
※週刊朝日 2019年7月5日号より再掲