HPVワクチン接種はすでに、100か国以上で導入されています。主に性交渉によって感染するため、HPVウイルスに感染する前、つまり性行為が始まる前に投与することが最も効果的となります。そのため、日本でも小学校6年生から高校1年生相当の女子に対してHPV ワクチンが定期接種となっていますが、「積極的な接種勧奨」の再開の次は、女子だけでなく男子も定期接種とする議論を始める必要があると私は考えています。
さて、日本では副反応が懸念され続け「積極的な接種勧奨」が中止されたままだったHPV ワクチンですが、WHO(世界保健機関)は2017年の諮問委員会による安全性に関する声明で、「HPVワクチンが承認されて以降、多くの大規模で質の高い研究・調査において、懸念されるような新たな有害事象は認められていない。HPVワクチンは極めて安全であると考えられる」との声明を出しています。子宮頸がんの撲滅に関するWHOのグローバル戦略の根底にあるのが、HPVワクチン接種なのです。
日本でHPVワクチンの「積極的な接種勧奨」が中止されていた間、HPVワクチンの有効性と安全性についてこれまで多くの研究が発表されました。さらに、HPVワクチン接種が開始されてから10年以上が経過し、子宮頸がん予防への効果が近年報告され始めているのです。
今年の11月3日、英国でのHPVワクチン接種の有効性がランセット(Lancet)において報告されました。それによると、2008年9月1日に英国でHPVワクチン接種が導入された結果、12-13歳の時にHPVワクチンを接種した女性の子宮頸癌の発現率は接種しなかった女性に比べて87%低いことが推定されたといいます。
国立がん研究センターのがん統計によると、2018年に子宮頸がんと診断された数は10,978例、2019年の死亡数は2,921人でした。「積極的な接種勧奨」が中止されていたのが約8年間なので、主に24歳以下の女性が接種の機会を失ったことになります。がん統計と統計局の人口推計より計算すると、15歳から24歳の女性の子宮頸がんの診断数は約24人です。そこで、英国でのHPVワクチン接種により子宮頸癌の発現率が87%低下するというデータを当てはめると、HPV ワクチンを接種していれば約21人は予防できていたことになります。10年後はどうかというと、25歳から34歳の性の子宮頸がんの診断数は約703人なので、HPV ワクチンを接種していれば約611人は予防できるだろう、ということになるのです。
昨年10月1日には、スウェーデンでのHPVワクチン接種の有効性がニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)において報告されています。それによると、
スウェーデンの10歳から30歳の女性約167万人を31歳までの追跡調査したところ、4価HPVワクチン(ガーダシル)を17歳までに接種した女性の28歳までの子宮頸癌の発現率は10万人あたり僅か4人でした。また補正解析の結果、非接種であった女性に比べて88%低いことが示されたといいます。
HPVワクチンの接種について、新型コロナウイルスワクチンの当初の接種遅れとは比較にならないほどの世界からの遅れを日本はとってしまったと言っても過言ではありません。
米国疾病予防管理センター(CDC)によると、米国の18歳から26歳の若い成人のHPVワクチン接種率は、2013年から2018年の6年間に22.1%から39.9%に増加し、2013年から2018年にかけて、HPVワクチンを1回以上接種したことがある女性の割合は、36.8%から53.6%へと増加し、男性の割合は7.7%から27.0%へと3倍以上に増加しました。
一方、日本のHPV ワクチンの接種率は1%未満です。「積極的な接種勧奨」の再開だけでは、接種率はすぐには上がらないでしょう。一人でも多くの男女が接種できるよう、接種についての丁寧な説明や支援体制の構築が、今後日本に求められるのではないでしょうか。
山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員