ショートではジャンプミスも続き7位と出遅れた。そこから立て直す心の強さを得たのが今回の最大の収穫だった
ショートではジャンプミスも続き7位と出遅れた。そこから立て直す心の強さを得たのが今回の最大の収穫だった
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 ISUグランプリシリーズのイタリア大会でショート7位に沈んだ鍵山優真選手。その後フリーでの大逆転で優勝したものの、当時はかつてないほど不安だったという。AERA 2021年11月22日号では、鍵山選手がイタリア大会でのショート終了後の自分を振り返る。

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 グランプリシリーズ(GP)3戦目となるイタリア大会。場所はトリノ五輪の会場だったパラベラ。鍵山優真(18)は堂々と胸を張って表彰台の真ん中に立ち、15年前のトリノ五輪の荒川静香と同じ風景を眺めていた。前夜のショートプログラムでまさかの7位となった少年ではなく、虎視眈々と北京五輪のメダルを狙う闘士の目をしていた。

 シニアデビューとなった昨季の世界選手権では、怖い物知らずで、銀メダルを獲得した。武器は4回転2種類。しかし王者のネイサン・チェンは4回転4種類5本をパーフェクトに決め、3位の羽生結弦と4位の宇野昌磨も3種類4本に挑んでいた。

「世界のトップ選手と一緒に試合をしたことで、やはり4回転はあと1、2種類増やさないと、というのを目の前で実感しました。今までは、試合では完璧に跳べるジャンプだけで安定性を重視してきました。でも来季は五輪に向けて、シーズン最初から1種類増やします」

 銀メダルを喜ぶよりも、五輪での決戦に向けて進化を誓っていた。何より大きな変化は、はっきりと男子のトップ3に照準を定めたことだ。夢物語で「五輪でメダル」と語るのとは違い、具体的な戦略を語るようになった。

■鍵山らしからぬ戦略

 オフに鍵山が新たに取り組んだのは、4回転ループと4回転ルッツ。ルッツの方が好調だったが、8月に練習中の転倒で右手の骨挫傷を負い、恐怖心が残ってしまった。急きょ、4回転ループを先に試合で投入することに変更したが調整が遅れ、7月以降は一度もクリーンに降りていないまま10月の関東選手権とアジアンオープントロフィーを迎えた。

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