作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんが11月9日、99歳で死去した。 女性の生と性を描いた小説で人気を集め、400冊以上を出版。平和や反原発を訴えるなど、社会活動にも取り組んだ。 自身も、結婚、不倫、出家──など波瀾万丈の人生だった。AERA 2021年11月22日号から。
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僧侶なのに、欲を隠さない人。瀬戸内寂聴さんの言葉を拾うたび、その矛盾が頭に浮かんだ。
俳優の仲代達矢さん(88)との対談で、お酒について聞かれると、あっけらかんと返した。
「えぇ、すごいですよ。だから、ついこのあいだも泥酔して階段から落ちて」(本誌2010年6月14日号)
寂聴さんは当時88歳。けがをして病院に行ったのに、医者からは「あなた、お元気ですね」と声をかけられたという。
欲の話でいえば、寂聴さんには「不倫」の2文字がつきまとう。
20歳で最初の夫と見合い結婚。そのわずか5年後、年下の男性との恋愛に走った。そして、作家の井上光晴(1926~92)との道ならぬ恋に落ちる。
■不倫なんて思ってない
だが、当の本人は後ろめたさを感じさせない。井上の娘である荒野(あれの)さん(60)が両親と寂聴さんとの三角関係を描いた小説を出版した際には、2人で対談。当時をこう振り返っている。
「そもそも私は井上さんとの関係を不倫なんて思ってないの。井上さんだって思ってなかった。今でも悪いとは思ってない。たまたま奥さんがいたというだけ。好きになったらそんなこと関係ない。雷が落ちてくるようなものだからね」(19年2月18日号)
ひょうひょうと話す寂聴さんに、荒野さんも「本当にそうだと思います」と呼応する。当事者同士にしかわからない不思議な関係性。この不倫は寂聴さんが51歳で出家するまで続いた。
人はなぜ、欲を捨てられないのか。本誌はかつて、寂聴さんに尋ねたことがある。答えは明快だった。
「人間は生まれてきたときから欲の塊。より良い豊かな暮らしをしたい、よりいい相手に巡り合いたいと、欲や煩悩が尽きないのは当たり前。それを捨てたら、穏やかな日常を送ることはできるかもしれないけれど、豊かな人生だとは言えないわね」(14年3月31日号)