「すごい価格だとは思いますが、決して現実離れしているわけではない」と、山下さんは見る。
「今は感染者数が落ち着いてきていますが、百貨店でお買い物をされるようなお客さまは外出への自制の力が働きやすい。特に海外への渡航はままならない状態が続いていますから。お正月くらいは、いいものを召し上がって、いい1年にしたい、という気持ちがあるでしょう」(山下さん)
正月に海外旅行に出かける代わりに、自宅でおせち料理を楽しむ。そう考えれば十分に現実的な価格なのだという。
■高額おせちで銀座を盛り上げたい
ちなみに、前川さんにブルガリにおせち料理を依頼した理由をたずねると、意外な答えが返ってきた。
「コロナ禍で銀座界隈のレストランも大変です。そんななか、いっしょに取り組んで銀座を盛り上げていきましょう、と思い切ってお声がけしたんです」
高島屋の山下さんも同様に語る。
「飲食業界がかなり厳しい状況ですので、経営を立て直していく意味でも、おせち料理は料亭様やレストラン様もご期待いただいている分野だと思います。製造数を去年よりも5台、10台でも多く作って、提供していこうと、ご協力いただいているお取引先様がたくさんございます」
昨年に引き続き、今年も高額おせちの予約は好調で、すでに完売した商品も少なくない。
しかし、高額おせちを増産するのは容易ではないという。
「食材の希少性だけでなく、相当に手間をかけて調理して、きちんと値段に見当った価値のある商品を販売しています。独自性のあるおせちを小さな厨房(ちゅうぼう)で作っていただいているので、需要が増えたからといって、それに合わせて大きく数を増やせるわけではないんです」(前川さん)
高島屋でも3年前から「懐石 小室」の30万円を超えるおせちを販売しているが、「これだけの付加価値をつけるのは簡単な話ではない」と、山下さんは言う。
「タケノコの煮もの一つとっても、当然、素材は国産で、かつ、産地が限定されたり、場合によっては生産者が限定される。カズノコは一般的な塩蔵した冷蔵のものではなく、北海道・前浜の『干し数の子』。それを水戻しして、ご主人の小室さんが味つけをして、おせち料理に仕立てていく。ものすごく手間と時間がかかっている。最近、高額おせちの市場が認知されてきていますが、だからといって、商品数がいきなり倍になるものではないんです」