「コロナがあって、『弱い立場の人たちの命は大切にされないかもしれない』『自分もいつ弱い立場になるかわからない』と思い知らされました。生きてきて初めての出来事です。小説を構想していた時期は、コロナのことなど考えもしなかったんですが、結果的に体調が悪くても病院へ行けない、入管に収容されたクマさんと、体調が悪くても自宅療養を強いられる人は、同じ立場ではないかと思いました」

 2020年の年明けから書き始めた本作は、5月から連載開始、終わったのは21年4月と、くしくもコロナ禍と執筆時期が重なった。作品には弁護士、元入管職員、通訳、それぞれの事情を抱えた在留外国人など、多様な人物が登場する。丁寧な取材のもと、人物の一人ひとりに血が通い、声が聞こえてくるのはひとえに中島さんの筆力だろう。小説で知る入管の対応、不条理な対応は衝撃的だ。

「まずはこうした現実を多くの人が知ること、そして忘れないことが大切」だと、中島さんは言う。

「社会的なテーマだからこそ、告発やスローガンではなく、ちゃんと小説として書こう、と思いました。読んでいるうちに登場人物のことを身近に感じられてくるのが物語の良さですよね。宇宙人の話でも遠い国の話でも、『これは私の友だちのことじゃないか』と思えてくるのが小説です。入管問題の印象が強い作品ですが、自分としては恋愛小説であり家族小説でもあり、マヤちゃんの成長物語でもあると思っています」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2021年11月22日号

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