なぜなのか。
実は、瀬戸内さんが小説を書き始めた当時、瀬戸内さんのあまりにも生々しいセックス描写の小説を、多くの批評家たちは情痴小説、ポルノ小説だと決めつけた。
それでも瀬戸内さんは、いささかもひるまずに生々しいセックス描写の小説を書き続け、本当に優れた小説を好む読者をどんどん獲得し、批評家たちの評価は変わっていった。瀬戸内さんは批評家たちの認識を変えてしまったわけだ。
私は、瀬戸内さんに「なぜ出家をしたのですか」と問うた。
「実は、セックスをやり過ぎたので、セックスをやめようと決意して、そのために出家したのです」
「それで、出家してセックスはやめましたか」
「それがやめられなくて、セックスをしては阿弥陀様に謝罪しているのです」
瀬戸内さんは、極めて真面目に答えた。
セックスをしても俗世に戻らず、阿弥陀如来に謝罪する、つまりセックスはするが自由奔放ではなく、神を恐れる精神を持っている。私は瀬戸内さんを人間として再認識した思いであった。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2021年12月3日号