そして亡くなる少し前、パリの淳子さん宅を訪れた有吉さんはワインをたちまち一本空け、さらにもう一本街で買ってきて、その飲み方と荒れ方は異常だったという。
「あんたになんかわかるもんか」
そのあせりはどこから来ていたのか。心配で、次の日そっとホテルを見に行ったという。
和歌山県はちょうど国民文化祭の最中で、日本ペンクラブの「ふるさとと文学 有吉佐和子の和歌山」とも重なり、一人娘玉青さんにも会うことが出来た。
転勤族の娘だった私も、広瀬川、大和川や多摩川と川のそばに住んだ。
生誕九十年を迎えた作家・有吉佐和子を生んだ紀ノ川は、徳川御三家の居城だった和歌山城のそばを今も流れる。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2021年12月3日号