
「主催者の有無にかかわらず、基本的に国や自治体は市民の安全を守る責務がある。10万人規模の人出を予想しながら安全対策を怠った国や自治体の責任を問うことは可能」
一方、事故当時、現場で「押せ、押せ」と言って後ろから押す人がいたという複数の証言があり、防犯カメラを分析するなど警察が捜査を進めている。
「押した人の特定も、押したことと死亡や負傷の因果関係の証明も難しいと思うが、あの密集状況で故意に押したのであれば、刑罰の対象になり得る」(弁護士)
一時、世間の関心は「犯人捜し」に向かっていたが、1日、事故前の通報内容が公開されると、一気に警察批判に向かった。事故の約4時間前から圧死の危険性を訴える通報が相次いでいたにもかかわらず、対応が不十分だったことが明らかになった。
■「集団トラウマ」に陥る
防げるはずだった事故で多くの命が奪われ、韓国はセウォル号事故後と同じ「集団トラウマ」に陥った状態だ。「満員電車に乗るのが怖い」と訴える市民らの声が報じられている。大韓神経精神医学会は声明を発表し、「事故当時の残酷な映像や写真がSNSなどを通してシェアされ、多くの国民の心理的トラウマを誘発する可能性がある。現場の映像やニュースを繰り返し見ることは控えるよう勧める」と呼びかけた。
特にセウォル号事故時に高校生だった世代が、今回最も死亡者の多い20代で、再び多くの同世代を亡くした「累積トラウマ」になる可能性も指摘されている。「せめて再発防止を」と願って8年前に取材に当たった筆者自身も無力感に襲われている。
(ライター・成川彩(ソウル))
※AERA 2022年11月14日号